「法学に興味あるけど、なんだかとっつきづらいなあ・・・」という方におすすめの、メンバーによるコラムを紹介します!
今回は、記念すべき第一回目のコラム企画です。興味がある方はぜひご覧ください!
この記事は、丹法会OBであるタピオカ居士(もちろん偽名です)さんがこのブログのために寄稿してくださった、超絶おもしろコラムです。
法学のおもしろさについて、独自の視点からお話をしてくれました! (会長)
1. 前置き(※最初の段落は読み飛ばし可)
2. 議論
3.おわりに
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1. 前置き
\コンニチハ!/ \ハジメマシテ!/ 私はタピオカ居士と申します。
丹法会にはおよそ2年強お世話になっております者です。私個人の専門は国際政治学で法学に関しては必ずしも専門ではないどころか初心者といっていい(同じような方はたくさんいるわけですが)会員の一人なのですが、時には自分の専門や(法学上の)関心に引き付けつつ、ゆっくりながらも大変楽しく法学学修の道を歩ませていただいております。
この丹法会での法学学修の道程では様々な局面や意味において非常に衝撃的に感じられたような邂逅が様々にありました。本稿ではその中の一つについて取り上げようかと思います。 その話は身もふたもないことを言えば私個人の法学学修の営みを振り返る機会を設けたいという圧倒的自己本位的な動機によってなされる自分語りに過ぎないものでありますが、一方でまだまだ法学学修の入り口付近に立ったばかりの駆け出し一学徒から見た法学像やその変化を部分的であれ表象することで他の法学学習者さま方との間で法学像や法学学修に関する見方について何某か共有したり議論するきっかけになるようなものを多少なりとも含んでいるのではないかと思います。もしもこの小稿をご笑覧くださった方といつかどこかで意見をやりとりすることができたらそれは私にとって大変な歓びです。
・・・とまあ、自己本位的記述を正当化するための前置きが非常に長くなってしまいましたが、要するに私には法学学修をしている中で「おっ???」となったこと、特に他の学問と比べてこれは法学に特に顕著な特徴なのではないか? と思ったことがあり、それを投げかけ共有した先で起こる「あるある~!」「いやそんなことないんじゃないの?」といったリアクションが如何なるものであるかにすごーーーーく関心があるわけなのです。それはまあ色々あるわけなのですが、本稿で提唱したいのはすなわち、コレです。
〇「法学の初学者向けテキスト、めちゃくちゃユルイ説」
「散々冗長な前置きで引っ張っておいて結局提起したい問題はそれか?(#^ω^)」・・・と(ごく自然な)ご叱責を頂戴することになりそうですが、私が法学を始めて驚いたことトップ3に間違いなく入るのはコレなんですよ。すなわち法学の初学者向けテキストが教科書としての体裁を保ちつつも他の学問の教科書ではおよそ見たことがないような、かなりポップでゆるキャラやら元気あふれる学生たちやオヤジギャグやらがポンポン出てくる(ように思われる)ことです。
この論点について、勿論厳密な検証は私の手に余りますが、いくつかの例や私の知る限りの他学問のケースとの比較を交えながらユルく論じていこうと思います。繰り返しますが厳密な検証は目的とせずまたそれには到底耐えない考察になりますが、この問題提起それ自体をしたいのが本稿での最大の目的なので、本稿を「いいね!」と思ってくださるような温情深き方におかれましては是非是非異論反論大いに大歓迎なのでご意見を伺いたいです。
2. 本論
さていよいよ本編・・・と言いたいところですがその前に念のために「法学の初学者向けテキスト めちゃくちゃユルイ説」仮説の中に含まれる「ユルイ」の意味内容を特定しておこうと思います。一応先ほど論点を提示し黙示的には明らかにしたかとはおもうのですが、フツーに文言だけを読むと「大雑把」だとか「適当」という意味にも解せますからね。そんなわけで私がこの語で言いたいのはもしかしたら「文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従った誠実な解釈」をした場合導けなくなる可能性があるのですが、もう一度より細かく特定すると「ポップなゆるキャラやおやじギャグ、サブカルネタや「そんなことまでわざわざ面倒見るの?」と思いたくなるようなトピックが選定されていたり、装丁が全体的に重厚でない」ことによって初学者の心理的障壁を軽減しているようなものを想定しているわけです。もう一点指摘しておくとそのような著作を(初学者の私でも名前を結構聞くような)信頼のおける学者先生が執筆しているパターンが相当に多いということが個人的には非常に驚きなのです。
例えば高橋則夫『授業中 刑法講義』という刑法のテキスト。これは説明それ自体が平明でなおかつ事件を抽象化したイラストもかなり見やすいのですが、随所にジョーク(例:「今回で故意は終わりです。まさに「ラヴ・イズ・オーヴァー」というわけですね(笑)」[1])がテンポよくさしはさまれていていい息抜きになると個人的には思うのですよね。
私は一応国際政治学という学問はかれこれ6年近く人並程度には勉強してついでにしょっちゅうテキストを買い集めるオタクになっていたりもするのですが国際政治学でこのようなポップな叙述を備えかつ学術的な体裁を十分に備えていると思われるものを中々思い浮かべることができません。ほかに関心を持ってやっている政治学とか行政学でもあんまり思い浮かばないです。国際政治学でも一応ゼミや授業等の講義再現という体裁をとっている著作は無くはない(例えば小原雅博(2019)『東大白熱ゼミ 国際政治の授業』が候補に挙げられるでしょう)ですが管見の限り数は多くないですし私見の極みにて恐縮ですが教科書的な網羅性と「ユルさ」のバランスが取れているものはやはり多くない気がします。
もちろん国際政治学や政治学に平明な記述で利用しやすい教科書がないというわけでは全くありませんし、所詮印象論と言ってしまえばそれまでなのですが、ともかく『講義中刑法』は「法学の(初学者向け)テキスト、お堅いイメージに反してめちゃくちゃユルイ説」の可能性を私に示唆したのです。(なお刑法で似たようなテイストの著作として私自身読みかけなのですが佐久間修・橋本正博編(2021)『刑法の時間』(有斐閣) もゲラゲラ笑いながら読めます。いわゆる壁ドンと暴行罪を結びつけたりとか。故意と恋をかけるのは法学者のトレンドか?と錯覚したりしました。)
『講義中刑法』のようなジョークたっぷりテキストだけではありません。更に別の2つの観点から法学テキストの特異な「ユルさ」の存在可能性を私に示唆させるようなものがまだあります。その1つが「ユルキャラ」です。
読者の皆様は有斐閣様をご存じでしょうか。法学書籍をはじめ様々な学問領域で良質な教科書レーベル(有斐閣ストゥディアですとか有斐閣アルマといったような。)を発行しているので大学生であればどこかしらで一度はお世話になっているでしょう。私も部屋の中には有斐閣書籍(2015年大学1年当時に買った有斐閣New Liberal Arts Selection の『国際政治学』は今でも時々参照します。)があふれています。(念のため申し上げておきますが有斐閣様の回し者ではありません!)
そんな私の有斐閣様へのイメージというのは「かっつりした、伝統のある、格式高い」といったようなフレーズと結びつくようなものでした。・・・法学を学習し始めて「あの鳥」に会うまでは。
そう、有斐閣公式キャラクター
「ろけっとぽっぽー」
くんです。
究極的には個人の感性に依存する問題だとは思いますが、トニカクカワ(・∀・)イイ!!です、ぽっぽーくん。
そのぽっぽーくん(人形)を使って有斐閣様はしばしば法学(以外のものも含む)書籍の紹介や勉強一般のアドバイスをしてくださるのです。勿論ぽっぽーくんの活動領域は人文社会科学の多岐にわたっているのですが、「有斐閣(のテキスト)」=「ザ・法学」=「お堅い」という固定観念のあるところにこのぽっぽーくんによる、ゆるふわ書籍紹介や勉強アドバイスを突き付けられたことで、私の中で法学に対するとっつきづらさが一段と下がったのは確かでした。
ぽっぽーくんが可愛いかどうかなどどうでもいいという異論はありうるかもしれませんが(異論なくカワイイです。会長追記)、ユルキャラというツールを介した書籍紹介や勉強アドバイスによってやはり初学者の心理的参入障壁を効果的に下げている側面はあるのではないかと思います。私自身もぽっぽーくんの小部屋(ぽっぽーの小部屋|有斐閣 (yuhikaku.co.jp)) にて自分でもとっつきやすそうな法学やその他の初学学問のテキスト探しをして「おっ!」となるようなものを何冊か見つけられているので著名出版社によるとっつきやすい学修支援サービスというのはやはり大変にありがたいものではないかと思います。
私が法学テキストに特有なように感じた「ユルさ」の最後の観点。それは「これでもかというほど細かく包括的な勉強アドバイス」本があまりにも多いという点です。
例えば横田明美 ・小谷昌子 ・ 堀田周吾『法学学習Q&A』(目次等紹介:法学学習Q&A | 有斐閣 (yuhikaku.co.jp))を例にとってみますと、六法や判例集を買うべきか否かという法学に固有の問題といえそうなものからレポートの書き方や学習の仕方、ノートの取り方までかなり細かいレベルの話まで含めて法学学習のアドバイスを行っています。
レポートの書き方やその学問に固有な教材の位置づけの話はまあ他の学問領域でもありそうだとおもうのですが、ノートの取り方まで細々と回答している著作というのは少なくとも自分の専門や専門に近い国際政治学・政治学では見た覚えがなく、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。別の著作を例にとりましょう。『法学テキストの読み方』(法学テキストの読み方 | 有斐閣 (yuhikaku.co.jp))。これもまたかなり細かいレベル、初学者の学習の仕方にこれでもかという細かいレベルに応答しています。特に「予備校本ではダメか」という質問まで取り扱っているのは本当に学習者目線であるなと非常な衝撃を受けました。(もっと単に法学を利用する各種資格試験が多数ある以上このような質問は他の学問領域以上に出やすいからという側面はあるかもしれませんが。)
私が(多少)なじみのある他学問領域、例えば国際政治学、政治学領域ですとテキストの性質や細かな勉強の仕方レベルで、なおかつ平易な記述で詳しい回答を行っているような初学者向けテキストはやはりなかなか思いつかず・・・。(強いて言えばこの丹法会が拠点を置く東京外国語大学の元学長中島嶺雄先生の『国際関係論-同時代史の羅針盤』は国際関係論をやるうえでの外国語や地域との向き合い方について語っているかなあという程度ですかね・・・。) 勿論、有斐閣様のレーベルですとか定評ある教科書、新書等で参考文献案内等は充実しているイメージはありますが普段の授業でどういうことを意識して授業に臨めばいいのか、というレベルのことまで扱っているのは法学に顕著なように見受けました。(上述したようにここで述べているのは印象であって厳密な検証結果ではないわけですが・・・ちょっと調べてみたくなりますね。)
3. おわりに
以上、ここまで私が法学の道を入り口付近をノロノロうごめいているだけとはいえ多少進み始めたときに出会った驚きの中でも最大に近かったもの=「初学者向け法学テキストの(予想とは異なる)ユルさ」について語ってきました。
勿論ここまで述べてきたことは一個人の、検証可能なデータに基づかない印象論レベルの主張であるわけですが、仮に私が言うところの「法学の初学者向けテキスト、めちゃくちゃユルイ説」がそれなりに信憑性のある妥当な説だったとして、ではなぜそのような状況が生じたのか?という疑問と私は格闘したくなります。
議論の前提=「ユルイ説」が間違っている可能性が妥当な仕方で否定できない以上生産性の無い問いかもしれませんが、これにはしばしばいわれがちな「とりあえず法学部」という形でさほど法学に興味がないけれども法学部に入ってしまった学生が時代と大学を超えてある程度普遍的に見られ、そのために研究者・大学教員の間にそのような「なんとなく入学」の学生に向けた動機づけと効果的な指導方法のノウハウが蓄積されやすい状況があったのではないか?と個人的には仮説を立ててみたくなります。
もっともその議論にはこの場ではこれ以上踏み込みません。以上、大変にまとまりのない悪文にて恐縮ですが、上記の通り一法学初学者が法学の道を歩んでいきはじめそこで法学テキストと出会った時の驚きという問題提起を締めくくりたいと思います。読者の皆様のうちのどなたかとでもこの問題を共有したり更なる議論をする機会がどこかであったらなあと密かに願う次第です。
タピオカ居士 記す
〇参考文献(本文中で触れたもの)
大橋洋一(2020) 『法学テキストの読み方』有斐閣
小原雅博 (2019)『東大白熱ゼミ 国際政治の授業』デイスカバー・トウェンティーワン
佐久間修・橋本正博編(2021)『刑法の時間』有斐閣
高橋則夫(2019)『講義中 刑法』信山社
中西寛・石田淳・田所昌幸(2013)『国際政治学』有斐閣
中嶋嶺雄(1992)『国際関係論-同時代史への羅針盤』中公新書
横田明美・小谷昌子・堀田周吾(2019)『法学学習Q&A』有斐閣
有斐閣「ぽっぽーの小部屋」ぽっぽーの小部屋|有斐閣 (yuhikaku.co.jp) (2021年6月30日最終アクセス)
[1][1] 高橋則夫(2019)『授業中 刑法講義』信山社、34頁。
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